読売新聞が8月21日に報じたニュースが、少し話題になっています。
子ども名義の定期預金、金利年21・3%分上乗せ…SBI新生銀「こどもNISA」の顧客獲得狙い(読売新聞オンライン) – Yahoo!ニュースSBI新生銀行は、17歳以下の子ども名義で新規に1か月物の定期預金に預け入れると、上限60万円で金利を年21・3%分(税引き前)上乗せするキャンペーンを始める。グループのSBI証券とともに、202
SBI新生銀行が、17歳以下の子ども名義で1か月ものの定期預金に預け入れると、上限60万円まで金利を年21.3%分(税引前)上乗せするキャンペーンを始める、というもの。
対象は2027年1月1日時点で17歳以下の子ども。SBI証券の口座を持ち、同行の口座と連携させることが条件になります。上乗せ幅の21.3%は「ニーサ」の語呂に合わせたものだそうです。
我が家には2人の子どもがいます。
つまり、どちらも対象です。そしてもうひとつ、私はSBI新生銀行の株主でもあります。
お金を受け取る側と、そのお金を出している側。
両方の立場から眺められる珍しい案件だったので、少し腰を据えて考えてみました。
「年21.3%」を分解すると、8,370円
報道では、60万円を預け入れると通常金利0.5%に加えて、21.3%分の約8,370円(税引後)の利息が受け取れるとされています。
この8,370円がどこから出てきたのか、逆算してみました。
- 600,000円 × 21.3% × 30日 ÷ 365日 = 10,504円(税引前)
- 10,504円 × 0.79685 = 8,370円(税引後)
ぴったり合いました。「年21.3%」は、30日間だけ適用される年率です。60万円を1か月寝かせて手元に残るのは8,370円。元本に対する実質の利回りは、およそ1.4%ということになります。
年21.3%と、1.4%。
同じ事実を別の角度から言い換えただけですが、受ける印象はずいぶん違います。
そして、なぜ「1か月もの」なのか。こどもNISAの開始は2027年1月1日で、各金融機関の口座開設受付は10月以降に始まる見込みとされています。10月から12月に預け入れれば、満期はちょうど制度スタートの時期。しかも上限の60万円は、こどもNISAの年間投資枠60万円と一致しています。
偶然ではなく、設計です。
定期預金の満期資金が、そのまま初年度の投資枠へ流れ込むように導線が引かれている。
「高金利の定期預金」という顔をしていますが、中身は口座獲得のための費用だと考えたほうが実態に近いと思います。
株主として見ると、この費用は高いのか?
連携口座の開設特典1,000円を足すと、1口座あたりのコストはおよそ9,370円。
銀行はこれを、何で回収するつもりなのでしょうか。
こどもNISAで買えるのは、つみたて投資枠の対象となる投資信託だけです。低コストのインデックスファンドが選ばれる前提に立つと、仮に上限の600万円まで積み上がったとしても、販売会社の取り分は年間で数千円程度。信託報酬だけを見れば、10年かけても回収できるか怪しい水準です。
それでも9,370円を出せる理由は、たぶん3つあります。
ひとつは、18歳になった後の受け皿という地位。こどもNISAの資産は18歳で成人NISAのつみたて投資枠へ自動的に移ります。そのとき同じ金融機関に口座がある状態を、いま先回りして押さえている。
二つ目は、口座を作りに来る親のお金。未成年口座の開設には親権者の口座が必要になるので、子ども1人につき親も1人、確実に接点ができます。
三つ目は、証券口座との連携による資金の滞留です。
そして決定的なのが、こどもNISAは金融機関の変更ができない見込みだと説明されている点。つまりこの9,370円は、最長18年の独占契約料ということになります。年あたり520円ほど。株主の立場では、悪くない買い物だと思いました。
顧客として見ると、同じ数字の意味が反転する
ここで立場を入れ替えます。
年520円で18年分の選択肢を渡す、という取引を、親の側から見るとどう映るか。
こどもNISAの中身をあらためて整理しておくと、年間投資枠は60万円、生涯の非課税保有限度額は600万円。買えるのはつみたて投資枠と同じ投資信託のみで、個別株は対象外です。この600万円は成人NISAの1,800万円に上乗せされるのではなく、その内数。払い出しは原則12歳以降で、資金の使い道が子どものためであることと、子ども本人の同意を示す書面の提出が必要になります。
18年つき合う相手を、8,370円で決める。文字にすると、判断としてかなり雑です。金融機関を変えられないのであれば、見るべきなのはキャンペーンの金額ではなく、10年後も残っていそうな商品ラインナップと、積立の使い勝手のはずです。
なお、金融機関変更の可否を含めて細部はまだ確定していない部分があるので、この点は各社の正式発表を確認してください。
子どもで試算してみると結論が真逆になった
我が家の2人で試算したら、答えが逆になりました。
下の子(2027年に3歳) は、18歳まで15年あります。年60万円を10年続ければ600万円の枠を使い切れて、そこから8年、非課税のまま運用を続けられる。制度が想定している使い方にきれいに当てはまります。
上の子(2027年に13歳) は、18歳まで5年。枠を毎年満額使っても300万円までしか積み上がりません。そして5年後には大学進学が控えています。
問題は金額よりも、期間の性質です。5年後に確実に使うお金を、値動きのある投資信託に置く。相場が下を向いている年と入学の年が重なる可能性を、5年では吸収しきれません。非課税の枠が余っているという理由でリスクを取りにいく局面ではない、というのが私の結論でした。
ただし、上の子にまったく意味がないとも思っていません。18歳で成人NISAへ自動移行するということは、成人した時点で本人名義の投資口座がすでに動いている状態を作れるということです。金額を増やす制度としてではなく、レールを敷いておく制度として使う。月々の金額を絞ってでも口座を開けておく価値は、そこにあると考えています。
同じ制度、同じ家庭、同じ親でも、子どもの年齢が変わるだけで使い方が変わる。「こどもNISAはお得か」という問いの立て方自体が、あまり実用的ではないのだと思います。
我が家の判断基準は、この3つ
1. 親の枠が先
我が家はすでに親のNISAを満額使っているので次の話になりますが、まだ埋まっていない家庭は、そちらが先だと思います。子ども名義の資産は法的に子どものものになり、親が自由に使うことはできません。柔軟性を失う順番を間違えないほうがいい。教育費以外にも、お金が必要になる場面はあります。
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2. 「変えられない」前提で選ぶ
8,370円ではなく、商品ラインナップと積立の使い勝手で決める。1社の条件だけを見て決めず、いくつか並べて比較してから選ぶ。10月以降は各社の争奪戦になりそうなので、いま時間を取って比べておくくらいでちょうどいいと思います。
3. 近くで使うお金は預金に置いたまま
12歳を過ぎても、払い出しには使い道の確認と本人の同意書面が要ります。自由に出し入れできる口座ではありません。直近の教育費と生活防衛資金は預金で確保したうえで、余裕資金だけを回す。ここは崩さないつもりです。
手続きの現実も、ひとつだけ触れておきます。SBI新生銀行の未成年口座は、親権者のいずれかが同行に口座を持っていることが前提で、親子の同時開設はできません。続柄が記載された住民票の写しは原本の郵送が必要です。親の口座、子の口座、証券のこども口座、そして連携。4段階を踏むことになります。8,370円を時給に換算したら、いくらになるでしょうか。
おわりに
もらえるものは、もらえばいいと思っています。
条件が合えば、私も下の子の分は取りに行くつもりです。
ただ、順番だけは間違えないようにしたい。8,370円は口座を選ぶ理由にはならず、選んだ後についてくるおまけです。
私は昔、目先の数字に引っ張られて選んだ商品で、何度か痛い目を見てきました。有利に見える条件は、たいてい相手の都合とセットになっています。今回のように、その都合が「18年間の囲い込み」だとはっきり読み取れるケースは、むしろ良心的なほうかもしれません。
21.3%という数字は本物です。ただ、それが効いている期間は30日で、判断が縛られる期間は18年。この非対称さだけ、頭の片隅に置いておこうと思います。




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