【商社マンの眼】三菱商事・三井物産・伊藤忠商事。この「御三家」を持ち続ける理由と、今は買い増さない理由

投資判断の記録・個別銘柄

投資歴25年、かつて商社系企業の管理部門で働いていた私にとって、総合商社株は単なる「ポートフォリオの一部」ではありません。それは、現場の熱量と、資源安という試練、そしてそこからの復活を肌で感じてきた、ある種の「戦友」のような存在です。

商社株はウォーレン・バフェット氏の参画を経て、かつての「割安株の万年放置」から「日本を代表する優良株」へと変貌を遂げました。

なぜ、私は数ある高配当株の中で、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事の3社を「一生モノ」として保有し続けるのか。

そして、なぜ今は一株も買い増していないのか。

その理由を、管理部門から見た「中の人の視点」で書きます。

私が見た「最終赤字の2016年度」。それでも商社を信じられる理由

多くの投資家は、商社の「右肩上がりの業績」だけを見ています。しかし、私が忘れられないのは2016年度の決算です。

当時の商社界隈はまさに「驚愕」でした。 資源価格の暴落により、三菱商事と三井物産が創業以来初の最終赤字に転落。

私がいた現場も例外ではなく、社内はかつてないピリピリした空気に包まれていました。管理部門には「販管費を徹底的に圧縮せよ」という指示が飛び交い、出張費の削減から不要不急の投資は先送りされる日々。

しかし、この時の「ピリピリした危機感」こそが、商社の真の強さだと私は確信していました。

「市況のせい」にして諦めるのではなく、減損という一過性の膿をすべて吐き出し、「資源に頼らない収益構造」へと舵を切る。この圧倒的な適応能力を目の当たりにしたからこそ、私は多少の市況変動では揺るがない信頼を抱くようになったのです。

三者三様。実体験から語る「カルチャーの違い」と投資価値

実際に仕事を通じて、あるいは業界のネットワークを通じて感じた3社の違いは、ポートフォリオを組む上での「分散」に繋がっています。

三菱商事:組織の力と「スマートな剛腕」

三菱商事は、まさに「組織の三菱」。社員一人ひとりが極めてスマートで、緻密な戦略の下で動いています。ゴリゴリのパワープレイは見せずとも、気づけば「国策に近い巨大案件」を盤石な体制で仕留めている。この組織力がある限り、経営が迷走するリスクは極めて低いと感じます。

三井物産:ボトムアップの「挑戦者」

「人の三井」を象徴するように、現場の一担当者が案件を形成し、上長にチャレンジしていく文化が今も息づいています。資源権益への執念は3社随一ですが、そのボトムアップから生まれる「多角的な投資案件」が、次の収益の柱を作る原動力になっています。

伊藤忠商事:一番輝いていた「現場の商人魂」

かつて飲み会でこの3社が集まると、圧倒的に一番ガツガツし、輝いていたのが伊藤忠でした。非資源分野、特に生活消費分野に強く、市況が悪くても「稼いでやる」という商人の執念を感じます。PBRの改善に最も早くから取り組んだ姿勢も、その「貪欲さ」の表れでしょう。

「持ち続ける」とは、こういうことです

ここで一度、私の手元の数字を出しておきます。

先に断っておくと、これは銘柄選びが上手かった話ではありません。商社株がまだ「割安で万年放置」と言われていた頃に買って、その後たまたま増配が続いた。ただそれだけです。

取得原価に対する配当利回りは、三菱商事で約10%。伊藤忠も同じくらい。

そして三井物産にいたっては、約19%。単純に言えば、あと5年ちょっとで、投資した元本が配当だけで戻ってくる。

こうなると、日々の株価は少なくとも配当目的の部分については判断材料ではなくなります。「持ち続ける」というのは精神論ではなく、時間と増配が作ってくれる、こういう状態のことだと今は思っています。

ただし、今から同じことは起きません

とはいえ、この数字を見て「商社株はすごい」と思われたなら、そこは正直に止めておきます。

これは私の取得原価だからです。

今のPBRを見てください。三菱商事1.92倍、三井物産1.67倍、伊藤忠にいたっては2.46倍。

商社株が「割安の代名詞」だった頃、PBRは1倍を大きく割っていました。解散価値より安く放置されていた。だから、あの利回りで買えたのです。

今は違います。もはや割安株ではありません。

なぜ「ビジネスモデルの進化」以上に「ベース利益」を見るのか?

多くのプロは「商社のビジネスモデルの変革」を評価しますが、投資家としての私の視点はもっとシンプルです。

私が重視していたのは、「ベース利益としてのキャッシュフローの固さ」、そして「PBRの割安感」でした。

キャッシュフローの源泉:資源権益や非資源の事業基盤から生み出される「現金」こそが、配当の原資です。ここが揺るがない限り、配当は維持されます。ここは今も変わっていません。

配当利回りとPBR:どんなに良い株でも、高く買いすぎては意味がありません。PBRの割安感があり、一定の配当利回りが確保できるタイミングで拾う。これが25年の失敗(FXやCFD)から学んだ「守りの鉄則」です。

そして今、この2つ目が満たされていません。

だから私は、この3社を一株も買い増していません。

売らないし、手放すつもりもない。でも買わない。矛盾しているようですが、持ち続けることと買い増すことは、まったく別の判断です。 ここを混同すると高値掴みをします。

自分が今買っていないものを「買い時です」と書くつもりはありません。

2026年、これから商社株を持ちたい人へ

株価は決して安くありません。それでも、私が管理部門で見た「苦境に陥るほど強くなる商社マンの底力」を知っている身としては、この3社は「一時的な株価の上下」で手放す対象ではない。

「資源価格が上がれば喜び、下がれば社員が必死に固定費を削って利益を守る」

この強固な仕組みに自分の資産を預けること。これこそが、サラリーマン投資家にとっての「賢い他力本願」なのだと私は考えています。

ただ、今から始める方に「私と同じように買えばいい」とは言えません。入口の価格が違いすぎるからです。

考え方としては3つでしょうか。

待つ。 PBRが下がる局面を待つ。ただし、いつ来るかは誰にも分かりませんし、待っている間は配当も入りません。

少額から積み上げる。 タイミングを取らず機械的に買う。取得原価は平準化されますが、高値圏から始めるリスクは残ります。

個別株ではなく、ファンドで持つ。 商社株を含む日本の高配当ファンドという選択肢もあります。集中リスクを避けつつ、似た性格の資産が持てます。

私が今の水準から始めるなら、おそらく3つ目を選びます。

もっとも、10年後に「あのとき買っておけば」と言っている可能性も普通にあります。そういうものです。

数字の裏を読めるかどうか?

最後に一つだけ。

私が管理部門で「商社の底力」を数字の裏から読み解けたのは、簿記やFPの知識というベースがあったからです。

たとえば先ほど書いた「ベース利益」。これは各社が決算資料で開示している概念ですが、純利益だけを追っていると絶対に見えてきません。市況の上下に一喜一憂して終わります。

資格を取れば投資判断ができるようになる、などと言うつもりはありません。ただ、自分で決算を確認できるかどうかは、他人の意見に振り回されないための土台にはなります。

「今の株価は高いのか、それとも適正か」を自分の頭で判断したいなら、資格の勉強を通じて「投資の共通言語」を学んでおくのは、遠回りに見えて案外近道かもしれません。

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