2026年9月1日、新発10年物国債の利回りが3.005%まで上昇しました。
3%台は1996年9月以来、およそ30年ぶりです。9月4日時点でも2.9%前後で推移しています。
一方、東証プライムの予想平均配当利回りは2.42%(9月4日時点)。
国債の利回りが、株式市場全体の平均配当利回りを上回っている!
これがどれだけ異常なことか。日本株はこの十数年、「銀行に預けても金利ゼロ、国債も0.1%、だから配当利回り3%の株は魅力的」という構図の上に成り立ってきました。
その構図が、静かに反転しています。
これから高配当株を買おうとしている人にとって、
これは銘柄選びの基準そのものを組み直す必要があるという話です。
なぜ金利が上がったのか?
背景は3つ重なっています。
第一に、日銀の追加利上げ観測。
9月17・18日の金融政策決定会合で政策金利を1.25%へ引き上げる確率は、市場で80%程度まで織り込まれています。すでに6月にも利上げを実施しており、3カ月間隔での追加利上げは従来の平均(半年弱)と比べてペースの加速を意味します。
第二に、米国側の要因。
ジャクソンホール会議でのFRB議長発言を受け、9月のFOMCで利上げが実施されるとの見方が強まりました。
第三に、財政不安。
2027年度の各省庁概算要求が前年度比で20兆円程度膨らみ、国債の需給悪化懸念が債券売りにつながっています。
利上げは1回で終わりません。市場の見方では、政策金利の最終到達点(ターミナルレート)は1.75%〜2.00%。2027年半ばから後半にかけて2%に達するシナリオも現実味を帯びています。
政策金利2%は33年ぶりの水準です。
つまり長期金利2.9%は、まだ通過点である可能性が高い。
「利回り3%=高配当」が成り立たない理由は?
高配当株の妙味は、絶対値ではなくイールドスプレッド、つまり「配当利回り − 長期金利」で測るべきものです。
| 時期 | 長期金利 | 配当利回り4%銘柄の スプレッド |
|---|---|---|
| 2021年頃 | 0.05% | +3.95% |
| 2025年前半 | 1.3%前後 | +2.7% |
| 2026年9月 | 2.9% | +1.1% |
同じ「利回り4%」でも、リスクを取って得られる上乗せ分は5年前の3分の1以下に縮んでいます。
株式には元本割れリスク、減配リスク、株価変動リスクがある。国債にはほぼない。
この差を1.1%のスプレッドで引き受けるのが妥当かどうか——
これが2026年の高配当株投資で最初に考えるべき問いです。
象徴的なのが銀行株です。三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)の予想配当利回りは9月4日時点で2.54%。長期金利2.9%を下回っています。
「金利のある世界」で最も恩恵を受けるはずのセクターが、すでに高配当株ではなくなっている。
株価が上がった結果として、利回りが薄くなったわけです。
新基準①:スタートラインは「長期金利+1.5%」
これまでの「配当利回り3%以上なら高配当」という目安は、いったん捨てたほうがいい。
代わりに使うのが相対基準です。
目安:長期金利 + 1.5% 以上
長期金利2.9%なら、4.4%以上がスクリーニングの下限になります。
3%台の銘柄は、増配余地や成長性で別途の理由がない限り、インカム目的では見送り対象。
そして重要なのは、この基準は金利が動けば動くということ。
ターミナルレートが2%まで進み長期金利が3.5%になれば、下限は5%に切り上がります。
買った時点の利回りが固定される国債と違い、株式は「相対的な魅力」が金利水準に応じて日々変わる資産です。
新基準②:配当性向50%以下、できればDOEか累進配当
利回りが高いだけの銘柄は、金利上昇局面でいちばん危ない。
チェックすべきは配当性向です。
配当性向が70%、80%を超えている企業は、業績が少し崩れただけで減配に追い込まれます。減配すれば株価も下がる。
インカムとキャピタルの両方を同時に失う、高配当株投資で最悪のパターンです。
配当性向50%以下を基準に置けば、業績が2割落ちても配当を維持できる余力が残ります。
さらに望ましいのが、配当方針としてDOE(株主資本配当率)や累進配当を明文化している企業。
配当性向は利益に連動するため業績の波をそのまま受けますが、DOEは株主資本という安定した数字が基準なので、配当が振れにくい。
累進配当は「減配しない」というコミットメントそのものです。
決算説明資料の「株主還元方針」のページを必ず確認してください。
ここを読まずに利回りだけで買うのは、金利のある世界ではリスクが高すぎます。
新基準③:有利子負債と金利上昇耐性
金利ゼロの時代には無視できた項目が、いま効いてきます。
借入で事業を回している企業は、金利上昇がそのまま支払利息の増加になります。
これは利益を削り、配当原資を減らす。
確認するのは以下です。
- 自己資本比率(目安40%以上。業種によるが低すぎる企業は避ける)
- 有利子負債/EBITDA倍率(3倍を超えると金利上昇の影響が大きい)
- 借入の固定金利比率(変動比率が高いほど直撃を受ける)
特に注意が必要なのがREIT・インフラファンドです。
借入で不動産を買って賃料収入を分配する構造上、調達コストの上昇が分配金を直接圧迫します。
利回り5%のJ-REITが並んでいても、それは金利上昇リスクを織り込んだ結果の利回りかもしれない。同じ「5%」でも中身が違います。
不動産、電力、リース業も同様に調達コストの影響を受けやすいセクターです。
新基準④:増配実績——インカムが「成長する」か?
ここが、国債に対する株式の最大の武器です。
国債のクーポンは買った瞬間に固定されます。
10年間ずっと2.9%。一方、株式の配当は増えます。
たとえば取得時利回り4%の株が、年5%ずつ増配していけば、10年後の取得価格ベース利回りは6.5%になる。国債の2.9%との差は開き続けます。
だから見るべきは現在の利回りではなく、増配の継続性です。
- 過去10年の連続増配実績(減配した年はあるか?)
- 1株当たり配当(DPS)の年平均成長率
- その原資となる営業利益・フリーキャッシュフローの成長
利回り3.5%で毎年増配している企業と、利回り5%で配当が10年横ばいの企業なら、長期では前者が勝つ場面が多い。「これから買う」立場なら、この視点は外せません。
セクター別の明暗
追い風 銀行・保険。預貸金利ざやの拡大が直接利益になります。ただし株価はすでに大きく上昇し、3メガのPBRは1.5〜1.7倍まで切り上がっている。利上げ期待は相当程度織り込み済みで、いまから「高配当狙い」で入る妙味は薄い。狙うなら地銀の出遅れ銘柄ですが、地銀は貸出先の信用リスクという別の問題を抱えています。
中立 商社、鉄鋼、エネルギー。金利より市況と為替の影響が大きいセクター。円安が続く前提なら輸出関連には追い風が残ります。
逆風 REIT、不動産、電力、リース。調達コスト増が利益と分配金を圧迫します。利回りの高さだけで飛びつくと、金利がもう一段上がったときに含み損と減配のダブルパンチを食らう可能性があります。
それでも株式を選ぶ理由は?
ここまで慎重論を並べましたが、高配当株が国債に劣後すると言いたいわけではありません。
株式が勝つ理由は3つあります。
① 増配。前述のとおり、インカムが成長する。これは固定クーポンの債券には絶対にできないことです。
② インフレ耐性。名目金利2.9%でも、物価上昇率が2%を超えていれば実質利回りは1%を切ります。企業は価格転嫁を通じて売上と利益を名目ベースで伸ばせるので、インフレ環境では株式のほうが実質価値を守りやすい。
③ NISAの非課税。ここが最も見落とされがちです。個人向け国債の利子には20.315%が課税されますが、NISA口座で保有する株式の配当は非課税。表面利回り4%の株をNISAで持てば手取りも4%ですが、課税口座の国債2.9%は手取り2.3%です。この差は決して小さくない。
買う前のチェックリスト
これから高配当株を買う人が、発注ボタンを押す前に確認すべき項目です。
- 配当利回りは長期金利+1.5%(現時点で4.4%)を超えているか?
- 配当性向は50%以下か?
- 配当方針にDOEまたは累進配当が明記されているか?
- 過去5〜10年で減配していないか?
- 自己資本比率は十分か、有利子負債は過大でないか?
- 買う口座はNISA成長投資枠か?
- 権利落ち日と配当の受取時期を把握しているか?
配当利回り・配当性向・自己資本比率での絞り込みは、証券会社のスクリーニング機能で一度に処理できます。私は松井証券の銘柄スクリーニングを使っていますが、複数条件を保存しておけば金利水準が変わったときに閾値だけ書き換えて再検索できるので、この手の「基準が動く」投資とは相性がいいです。
個人国債との併用も選択肢に
そしてもうひとつ。金利が上がったことで、個人向け国債という選択肢が10年ぶりに戻ってきました。
とくに変動10年は半年ごとに利率が見直されるため、日銀の追加利上げをそのまま取り込めます。
ターミナルレート2%を見込むなら、いま固定で買うより変動のほうが有利になる可能性が高い。
高配当株ポートフォリオの一部を現金や個人向け国債で置いておけば、株価が下がったときの買い増し余力にもなります。「フルインベストが正義」だったゼロ金利時代の常識も、待機資金にコストがつく世界では変わります。
まとめ
長期金利2.9%の世界で、高配当株の選び方はこう変わります。
- 利回りは絶対値でなく、長期金利との差(スプレッド)で見る
- スタートラインは長期金利+1.5%。いまなら4.4%
- 配当性向50%以下、DOE・累進配当の明文化を確認する
- 有利子負債の多い企業とREITは金利上昇の直撃を受ける
- 現在の利回りより増配の継続性を優先する
- NISAの非課税枠を最優先で使う
「利回りが高いから買う」は、金利ゼロの時代だから通用した判断でした。金利が戻ってきたいま、同じ物差しを使い続けると、リスクを取っているのにリターンが見合わない銘柄をつかむことになります。
基準を組み直したうえで選べば、高配当株はいまも十分に有効な資産クラスです。
補足:金利と株価の関係をもう一段深く理解したい方へ
イールドスプレッド、株式益回り、DOEといった指標の考え方は、証券アナリストやFPの学習範囲と重なります。体系的に押さえておくと、こうした局面転換のときに自分で判断できるようになります。


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