この記事でわかること(3行まとめ)
- 米10年債5%とSPYD4%は、そのまま並べても比較になりません
- 税引後で並べると差はむしろ広がります。 ただし取得単価ベース(YOC)で見ると順番が入れ替わります
- 私はSPYDもHDVも売りませんでした。精神論ではなく、計算した結果です
「国債5% > SPYD 4%」という見え方
今週、米10年債の利回りが一時5%台に乗せました。2023年以来の水準です。
一方、私が3年半持っているSPYDの表示利回りは4.09%。数字だけ並べれば「国債のほうが有利、乗り換えるべき」に見えます。
その結論に飛びつく前に何を確認すべきか、自分の口座の数字で整理します。
なお利回りの考え方そのものは、以前「配当利回り4%は本当に高配当か?」で書きました。あのときの物差しは日本の長期金利3%でしたが、今回は米10年債5%で測り直します。
まず、自分の数字を出します
市場の数字(2026年9月中旬) SPYD株価 48.49ドル/表示利回り 4.09%/6月の分配金 1株0.54285ドル
私の口座の数字 取得単価 40.49ドル/取得時のドル円 約138円/YOC 約5%
ここが最初の分岐点です。
表示されている4.09%は、今日買う人の利回りです。2023年に買った私の利回りではありません。
取得単価が今より2割ほど低いので、実際に受け取っている利回りは表示より高くなります。「乗り換えるべきか」は、表示利回りではなくこのYOCと比べて初めて意味を持ちます。
さらに円建てで見ると、取得時138円に対して今は158円台。同じ分配金でも円での受取額は約15%増えています。自分の利回りは、取得単価と取得時の為替の両方で決まります。
比べる前に揃える4つの条件
利回りを比較するなら、最低限この4つを揃える必要があります。
- 通貨:ドル建てか、円換算後か
- 課税:税引前か税引後か。課税口座かNISAか
- 確定性:債券の利回りは満期まで持てば確定。配当は変動する
- 元本:債券は満期に額面が戻る。ETFは戻らない
多くの比較記事は1と2を飛ばしています。飛ばすと5%は5%のまま見えますが、揃えると景色が変わります。
税引後で並べると、差はむしろ広がります
| 商品 | 税引前 | 税引後(概算) |
|---|---|---|
| 米10年債 | 4.95% | 約3.94% |
| SPYD(課税口座) | 4.09% | 約2.94% |
| SPYD(NISA) | 4.09% | 約3.68% |
| 個人向け国債 変動10年 | 1.95% | 約1.55% |
| 個人向け国債 固定5年 | 2.24% | 約1.79% |
| 日本10年国債 | 3.00% | 約2.39% |
米国株の配当は、まず米国で10%、そのうえで国内で20.315%が引かれます。外国税額控除で米国分の一部は取り戻せますが、全額ではありません。「戻ってくる」と「全部戻る」は別物です。
税引前は0.86ポイント差でしたが、税引後は1.00ポイントに広がります。 課税口座で比べるかぎり、差は縮まるどころか開く。これが正直な計算結果です。
では、YOCで並べ直すと?
上の表は「今日買う人」の数字でした。私の数字で並べ直します。
| 税引後(概算) | |
|---|---|
| 米10年債 | 3.94% |
| SPYD(NISA・YOCベース) | 約4.5% |
| SPYD(課税口座・YOCベース) | 約3.59% |
順番が入れ替わりました。
NISA保有分は米10年債を上回ります。米国の10%は取り戻せませんが、国内課税がかからないぶん乗り換える理由がありません。
一方、課税口座分は負けます。 ここは正直に書いておきます。
それでも売らなかったのは、取得単価40.49ドルに対して現在48.49ドル、約20%の含み益があるからです。1ポイントの利回り差を取りに行くために、20%の含み益へ課税されるのは割に合いません。
為替リスクは、債券にもあります
「高配当ETFは為替リスクがあるから国債のほうが安全」という説明を見かけますが、これは正確ではありません。
米10年債もドル建てです。 158円台で買って1年後に150円になれば、為替だけで約5%のマイナス。4.95%の利回りはほぼ消えます。両方ともドル資産であり、為替リスクの有無に差はありません。
そして今日、それを象徴する動きがありました。
日銀は政策金利を1.0%から1.25%へ引き上げ、1995年以来31年ぶりの水準となりました。6月以来3か月ぶりで、植田総裁のもとでは最速ペースです。
金利差が縮まれば円高、というのが教科書的な理解です。ところが利上げ当日の夕方、円は158円台まで下げました。
利上げしたのに円安になる。 為替とはこういうものです。読めないものを読めた気になったときが、一番危ない。
債券と配当の、たった一つの違い
為替リスクが同じなら、差はどこにあるか。一点だけです。
債券のクーポンは満期まで増えません。配当は増える可能性があります。
SPYDは前年の同じ四半期と比べると8回連続で分配金が増えています(四半期ごとの比較では増減があります)。今後も続く保証はなく、過去には減配も経験しています。
それでも、為替で負けたときに取り返せる可能性があるかないかは、10年単位では性格が違います。
HDVがNISAで買えなくなった意味
HDVは2026年6月16日から分配が年4回から毎月に変更され、毎月分配型は新NISAの対象外のため、成長投資枠で買えなくなりました。 保有分はそのまま非課税で持てますが、買い増すなら課税口座です。
つまり新規資金については、SPYDはNISAで3.68%相当、HDVは課税口座で2.94%相当。この0.7ポイント強の差は、10年20年では無視できません。
なおHDVは4月29日に1対5の株式分割も実施し、最低購入金額は約4,300円になりました。買いやすくなったのに、NISAでは買えなくなった。 これが今年のHDVです。
2026年、SPYDとHDVで結果が分かれました
「高配当ETF」とひとくくりにされますが、中身は別物です。SPYDは利回り上位80銘柄の均等加重で不動産・金融が厚く、HDVは財務健全性重視でエネルギー・ヘルスケアが厚い。
2026年は原油が100ドルを超え、エネルギーセクターが特に強く推移しました。HDVの純資産は8月時点で約153億ドルまで増えています。ただしこれは分割や毎月分配化の効果ではなく、相場環境がHDVの中身に有利だっただけです。
その追い風も一方通行ではありません。9月16日のFOMC当日、エネルギーは2.97%、金融は1.63%下落しています。
金利上昇で重いのはSPYD、資源価格が反転すれば重いのはHDV。 私が2本を併せて持っているのは、この性格の違いがあるからです。
名目5%は、実質だと1%台
最後に、どうしても書いておきたい視点があります。
- 米国:10年債4.95% − PCE見通し3.7% = 実質約1.2%
- 日本:個人向け国債1.95% − コアCPI1.8%前後 = 実質ほぼゼロ
FRBは2026年のPCEインフレ見通しを3.7%へ引き上げ、9月16日に0.25%の利上げを全会一致で決定しました。利上げをしているのは、インフレがまだ落ち着いていないからです。
5%が魅力的に見えるのは、その裏に3.7%のインフレがあるから。名目の高さと購買力の維持は別の話です。
私が決めたこと
①SPYDもHDVも売らない YOCで見ればNISA分は米国債を上回り、課税口座分も含み益への課税を払ってまで動く理由がありません。
②HDVは買い増さない NISAで買えなくなった以上、新規資金を課税口座で入れる理由が見つかりません。保有分は持ちます。中身が劣化したわけではないからです。
③円建ての置き場を作る 個人向け国債 変動10年が1.95%(2003年の発行開始以来の最高水準)まで来ました。ドル資産をドル資産に組み替えるより、円で取れる金利を取りにいくほうが、全体のリスクは下がります。
まとめ
- 表示利回りではなく、自分の取得単価ベースの利回り(YOC)で比べる
- 税引後・円建てに揃えてから比べる。揃えると順番が変わる
- 名目ではなく実質で見る。 5%の裏には3.7%のインフレがある
金利のある世界に戻り、比べるべき対象は増えました。ただ選択肢が増えたときほど、土俵を揃える作業を飛ばさないことが大事になります。
私が25年でいちばん高くついた失敗は、数字を揃えずに「良さそうに見えるほう」へ動いたことでした。今回は計算してから決めました。



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